1 共通基盤の「共通」「基盤」って何ですか?

1 共通基盤の「共通」「基盤」って何ですか?

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1 共通基盤の「共通」「基盤」って何ですか?

私たちが新基幹システムの活動をはじめたとき、どうしてもわからなかったのは、共通基盤が何かということでした。

「データ連携はどの製品を採用していますか?」
「仮想化は効果がありますか?」
「文字基盤について教えて欲しい」・・・

これらは、札幌市のシステム再構築の事例のなかで共通基盤(システム基盤)について教えて欲しいと言われた際に、実際に聞かれた内容です。

皆さんの中にも、「共通基盤の共通は何が共通で、基盤は何が基盤通なのだろう?」と思っている人は多いのではないでしょうか。

他の自治体の方との情報交換を通じてわかってきたことは、共通基盤は使う人によってさまざまな捉え方があり、それぞれの狙いやもたらされるメリットが異なるということでした。

そこで、札幌市では開発にあたり以下の3つの実現を共通基盤の方針として具体化し、進めてきました(図2)。

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それは、
「(1) 統合して有効活用し無駄を省く」こと、
「(2) 機器やシステム、ベンダーを入れ替え可能にする」こと、
「(3) 技術的なノウハウを流用できるようにする」
ことです。

以下、この3つの方針のメリットについて説明したいと思います。

1.1 共通基盤の3つのメリット

(1)統合して有効活用し無駄を省く

これは、インフラや業務システムが使う機能や情報を共通で利用できるようにすることで、無駄を省きつつスケールメリットを生み出し、コストの削減を図ることです。

「インフラ」は、サーバー機器やデータベースソフトなどのソフトウェアから構成される環境のことで、これらを共通化することで削減することができます。
また、業務システムから使われる機能には、住所管理や宛名管理のようなどの業務システムでも利用するものがあり、これらを共通化することによって、開発や変更を効率化することができます。

札幌市の再構築以前のシステムは、ひとつの大型汎用機のなかで個別に稼働していましたが、他のシステムへの連携のためにサーバーが複数存在しているといった状況がありました。
また、システムごとに認証や宛名管理、文字変換や住所管理といった機能が個別に存在している状況でもありました。

新システムでは、これらのものをシステム基盤として統合し、業務システムへ提供しています。

インフラを統合することによりシステム間でさまざまなリソースを共有することが可能となり、繁忙期・閑散期における負荷が平準化され、ITリソースの有効活用を実現しています。
仕様や製品を統一することで、集中購買によるスケールメリットにもつながり、調達コストを大幅に低減することもできました。
統合されたことで、監視などの運用業務についても集約を行うことが可能になり、オープン化したことで起こりがちな運用保守コストの増加も抑制できています。

また、システムごとに重複して構築されてしまいがちな機能や情報もシステム基盤が共通化して提供しています。

ここで共通化の対象は、システム機能だけでなく、扱われる情報・データも含んでいることに注意してください。統合宛名管理、住所入力支援、全国・市内住所管理、金融機関マスタ管理、システム運用監視、外字文字管理といったものがあります。

第1回で紹介したように、札幌市の基幹系システムは段階的にリリースをしていますが、共通機能の提供により、後発システムは提供された機能を利用することで開発を効率化することができました。

運用保守フェーズにおいても、住居表示対応、外字追加などの運用保守コストの削減を実感できています。

(2)機器やシステム、ベンダーを入れ替え可能にする

これは、インフラと業務システムとのやりとり、業務システム間のやりとりを共通にすることで、業務システムをカセッタブル(注1)、つまりゲーム機のカセットにように入れ替え可能にしたり、インフラを製品指定することなしに調達できたりすることです。

入れ替え可能になることで、競争入札における価格競争によるコスト削減を図ることができます。

再構築以前のシステムは、一部で共通基盤のシステムを導入していましたが、ほとんどのシステムがインフラから業務システムまで垂直統合された形で提供を受けており、入れ替えることが困難でした。また、業務システムのデータ連携がそれぞれのシステムの間で直接行われており、システム同士の結びつきが強く、1つのシステムを修正したときに他のシステムへ広く影響が生じてしまうといったことが起こっていました。

新システムでは、業務システムを自由に入れ替えることが可能です。入れ替え可能になることで、製品指定を極力排除した形で調達を行うことができ、インフラ調達コストの低減ができました。

なお、業務システムを入れ替えることとは反対に、業務システムは入れ替えずにシステムを保守するベンダーを入れ替えることまで可能にしているところは、札幌市の基幹系システムの特徴的な点です。

(3)技術的なノウハウを流用できるようにする

これは、システムの「アーキテクチャ」を共通にすることです。
あらかじめ知っておくと開発効率を上げることができるノウハウが共通で利用できるようにすることで、システムの開発コストや保守コストの削減を図ります。

「アーキテクチャ」というのは、もともとは建築の用語で、日本語で言うところの建築工法のことです。家でいうと同じ木造建築でも「2×4工法」や「在来工法」といった建て方があるように、システムでも同じように、Java言語を使う場合であってもシステムの工法(作り方)にはさまざまなものがあります。

札幌市の再構築以前の基幹系システムは、そのほとんどが共通の機器である汎用機上あるいは共通のMW上で動作するように作られていました。
しかし、税や国保といった業務の単位や作られた時期によって作り方はバラバラになっていました。そのため、技術的なノウハウを共通で利用することができず、システムを保守できる人が限られてしまうということも起こっていました。

新システムでは、システム基盤がアーキテクチャ設計書や規約によって基幹系システム全体の「アーキテクチャ」を決めています。業務システムはシステム基盤が決めたアーキテクチャの範囲でシステムを作るため、どのシステムも作り方が共通になっています。
これによって、開発や保守においてノウハウの提供が可能となり、学習コスト削減による開発生産性の向上が図られるとともに、地場を含む複数のベンダーに公平な参入機会を提供することができるようになりました。

規約の提供をシステム基盤の役割としているのは札幌市のシステム基盤の特徴的な点ですが、これは規約をアーキテクチャの理解を深めるためのドキュメントとして位置づけているAIST包括FW(フレームワーク)の考え方に基づくものです。

(注1) カセッタブル:異なる会社が提供する業務システムを入れ替えが可能な状態で提供すること。総務省による「地域情報プラットフォーム構想」においてマルチベンダー化推進のための主要な要件に位置付けられている。

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