1. 職員主導の開発で直面するさまざまな壁

1. 職員主導の開発で直面するさまざまな壁

1.1 ゼネラリスト志向の職員をピッチに立たせる難しさ

システム開発プロジェクトは、プロジェクトを担う人それぞれが持つ力を最大限に活かし、限られた人的リソースを上手く活用していくことで、はじめて成し遂げることができます。

そのためには、人を育て、人を活かすという視点がとても重要になります。

しかし、そこまでにいたるための人の育成には非常に困難を伴います。

自治体においては、この困難はより顕著なものとのとなります。

ゼネラリスト志向の人材配置や数年での定期人事異動により、システム開発経験が無い、または乏しい人がプロジェクトに参画することになり、人を育てる難易度はとても高いものとなります。

また、これに加え、年度単位で事務分掌を定める人材配置によって、人を活かす配置や柔軟な配置変更といったものがとても難しいものとなります。

1.2. 「人」を欲し、「人」に翻弄される

システム開発プロジェクトでは、さまざまなことが起こるため、想像している以上に職員側の体制を厚くする必要があります。

もちろん要員が少なければプロジェクトを回せませんが、増えることによって別の問題が生じるので厄介です。

札幌市のシステム再構築プロジェクトは、開始当初の平成22年度の情報化部門の専任職員は4名でした。これが、翌年度には12名増の16名と、約3倍の体制となります。

以後は、23名(24年度)、32名(25年度)、34名(26年度)、28名(27年度)と推移し、プロジェクトのピークである平成26年度までは一貫して人員が増えていきました。

また、一緒にプロジェクトを推進する業務所管部門の専任職員は1名(22年度)、16名(23年度)、26名(24年度)、39名(25年度)、37名(26年度)、31名(27年度)と推移しています(表1)。

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部分的に外部からの支援も受けながら進めましたが、基本的にはそれまでシステムの経験のなかった職員がシステム開発を担っています。

(1) 人を育てる余裕がない、人が育たないから余裕がない悪循環

システム開発プロジェクトの序盤は、急激に人が増える状況となります。

特に企画段階から実施段階に移るタイミングでの増加割合は非常に高いものとなります。

人が増えたからといって、新しいメンバーが急に活躍できるわけではありません。

環境に慣れ、必要となる知識やスキルがある程度備わった状態に達する必要があります。

自治体の場合は、システム開発の経験が少ない人が配置されることが多いという特徴もあり、この状況に達するまでの労力がとても大きなものとなります。

既存メンバーは、新しいメンバーに早くプロジェクトで活躍してもらえるよう、育成を行うことになりますが、目の前のプロジェクトを進めるための業務に追われ、そちらを優先してしまいがちです。

プロジェクトはその完遂が大前提であり、日々結果を出していかなければ、その先がないからです。

こうして、育成が後回しになることにより、新しく来た人のリソースを活用できず、既存メンバーはリソース不足となり、さらに日々の業務に忙殺され育成の余裕がなくなる・・という悪循環に陥っていきます。

 札幌市のプロジェクトでは、プロジェクトの実施決定があってから、約1年後の平成23年4月頃がこの問題が発生したタイミングでした。

既存メンバーが4名だったことに対し増えたメンバーが4倍の16名となり、とても苦労した時期でした。

(2) 人が増えると今度は意思決定がもたつきはじめる

初期の要員増に対応して人を育成するという課題を乗り越えると、今度は増えた人によってプロジェクトの意思決定がもたつきはじめるようになります。

 この頃にはプロジェクトが複数並行して走るようになり、プロジェクト間、メンバー間のコミュニケーションや意思決定に係る調整が指数的に増加していきます。

そして、新しい人たちの成長とともに任せる範囲が増え、それに合わせて役割も細分化されて分担されるようになります。

プロジェクトを全体統括するメンバーも、すべてのプロジェクトに参画して状況を把握することが困難となるため、プロジェクトメンバーからの報告やエスカレーションの仕組により状況を把握するようになります。

 そうすると、増えた人や役割分担により、プロジェクトが全体として一貫性のある意思決定を保つことが難しくなります。そして、プロジェクトの意思決定が遅延したり手戻りを起こしたりするようになります。

札幌市のプロジェクトでは、プロジェクト開始から3年目となる平成24年度の中頃からみられるようになりました。

プロジェクト開始当初のメンバーが4名だった頃は、座席上で声を掛け合って意識合わせを行い、数時間、遅くてもその日のうちに意思決定できていました。

これが、メンバーが増えてくるにしたがって、メンバー内での打ち合わせ、エスカレーションのための打ち合わせといったように、一つのことを決定するために、さまざまな関係者と複数回の打ち合わせが行われるようになります。

これまで遅くてもその日のうちにできた意思決定が数日、酷くなると一週間くらいかかってしまうということが起こるようになりました。

1.3. プロジェクトの変化に要員がついていけない

増加する要員に対する育成の問題を解決し、意思決定の円滑化が達成できたとしても、要員の問題は続きます。プロジェクトへの人材配置について、想定と実際に配置してみての結果が異なる、いわゆるミスマッチの状況が起こりやすくなります。

人が増えることにより、役割が細分化され分担されるようになりますが、それぞれのメンバーが持ち味を十分発揮し、プロジェクトとして成果をあげてもらうためには、それぞれ配置するメンバーの特性が細分化された役割にマッチしたものとなっている必要があります。

しかし、この役割と人材配置がマッチするかは、プロジェクトの特性や関係するメンバーとの組み合わせなど、さまざまな要素によって変わってきます。そのため、ミスマッチの状況が起こりやすくなるのです。

また、プロジェクトは状況の変化が激しいため、配置当初はマッチしていても、状況の変化でミスマッチが起こることもあります。

さらに、プロジェクト全体を俯瞰したときに、個別にはミスマッチが起こってはいないが、配置の全体最適を図るうえで配置を調整した方が良いというケースも生じます。