2. 都度最適なフォーメーションを作る

2. 都度最適なフォーメーションを作る

私たちは、これまで紹介した問題について、試行錯誤を行った結果、システム開発プロジェクトもサッカーと同じように、フォーメーションとメンバー編成を分けて考えることが重要だと考えるようになりました。

ここでは、プロジェクト体制の状況に応じた最適化について説明します。

プロジェクト体制についての難しさは、複数の個別プロジェクトが並行する状況において、システム開発プロジェクト全体としてみたときに、プロジェクト立ち上げ期、定常運行期、リリース期という3つのフェーズにおいてそれぞれ異なる問題が発生することに起因します。

そこで、サッカーが前半戦と後半戦でフォーメーションを変えるように、システム開発プロジェクトも、この3つのフェーズに合わせて、それぞれの問題に合わせた体制をとれるようにしようと考えました(図2)。

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札幌市のプロジェクトは、AIST包括FWに定義される役割をもとに、プロジェクト全体を推進する「PMOチーム」と業務システムの開発単位で設置する「個別プロジェクトチーム」の2段階のチームが基本体制となっています(図3)。

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この基本体制をもとに、次にあげる3つのフェーズに合わせたプロジェクト体制を構築しました。

2.1プロジェクト立ち上げ期はPMOがしっかり関わる

 札幌市のプロジェクトは、平成22年度に、最初に稼働予定であった住記システムのプロジェクトを先行してスタートさせました。

これは、平成22年度のうちに大きなプロジェクトに備える準備を進め、平成23年度から人員を増やし、複数のシステムのプロジェクトを次々に立ち上げて本格的な開発に入っていくことを狙った開発計画でした。

人員が増えるタイミングで、再構築事業の企画段階から関わっていたメンバー4名をPMOチームに配置し、個別プロジェクトチームに新しく参画したメンバーを配置する体制としました(図4-1)。

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 PMOチームのメンバーは個別プロジェクトチームのメンバーと一緒に行動し、多くの面で集中的に関わるようにします。この形を採ることで、プロジェクトの実効性を維持しつつ、新しい人が早期にプロジェクトに関わり、成長の機会を得ることができるようになります。

また、この時点ではプロジェクト全体の一貫性を保つための仕組みが十分ではないため、PMOチームのメンバーがプロジェクト全体に事業のビジョンやミッションを浸透させ、さまざまな統制を行うことも可能とします。

 この体制を実現するためには、スキルが十分でない新規配属メンバーでも定常的なプロジェクトの運営ができるようになっていなければなりません。

過去の連載でお伝えした「プロジェクト計画に力を入れることによりプロジェクトをコントロールしやすくする」ことが実現できていることが必要です。

2.2 定常運行期にはPMOが役割分担して関わる

プロジェクトの立ち上げ期を乗り越えると、プロジェクト全体としてみたときに、個々のプロジェクトについて、要件定義が始まったもの、基本設計まで進んだもの、リリース段階に入ったものというように、さまざなフェーズが入り乱れる状況になってきます。

このことによって、プロジェクトの全体として統制の範囲が広がるだけでなく、さまざまなフェーズに合わせて専門性の高い統制が必要となってきます。

PMOチームも役割分担を行いながら複数プロジェクトに関わっていく必要がでてきます。

そこで、立ち上げ期のような個別プロジェクトチームに集中的に関わる形から、進捗定例や課題対応の打ち合わせなどに絞るなどメリハリをつけた参画を行い、徐々に個別プロジェクトチームへの参画度合を薄めていきます。

個別プロジェクトチームの参画を薄めたうえで、PMOチームを当初のメンバーすべてが同じ役割を担う形態から、プロジェクト全体のマネジメント業務などを行う「PMOサブチーム」、成果物品質の標準化と準拠の確認を行う「統括品質サブチーム」、アーキテクチャの統制を行う「仕様統括サブチーム」という3つのサブチームに分かれる体制へと分化させました(図4-2)。

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「PMOサブチーム」については、個別プロジェクトに対しプロジェクト全体としてのマイルストーンを提示し進捗の管理を行います。

「統括品質サブチーム」については、それぞれの個別プロジェクトで発生した課題のうち、全体として決めるべき、成果物の品質に関する標準化や方針を決定し個別プロジェクトへ通知するとともに、規約への記載などを行います。

「仕様統括サブチーム」は、システムアーキテクチャの統制や機能共通化などについて、方針を決定し個別プロジェクトへ通知するとともに実装を進めていきます。

札幌市の場合、プロジェクト開始から3年目となる平成24年度にこの体制に移行しました。

一番はじめに稼働予定(平成24年度)であった住記システムのプロジェクトが開発フェーズとなり、平成26年度に稼働予定のシステムは基本設計フェーズ、平成27年度に稼働予定のシステムが要件定義フェーズの準備にさしかかるタイミングです。

個別プロジェクトチームへの参画を薄めていくにあたっては、非常にバランス感覚が求められます。

多忙のために個別プロジェクトチームへ任せたいと思いつつも、成果を求められるプロジェクト活動であるために深く関わって細やかに状況を把握し、コントロールしたい状況でもあります。

任せることは、それぞれのメンバーが実際にプロジェクトの困難に直面しそれを乗り越えることで経験や自信となり成長につながるものです。

それを任せないということは、その経験が得られる機会を失わせているということを強く意識するようにしましょう。

2.3 リリース期には稼働時期が同じシステム単位の統括体制

札幌市の基幹構築プロジェクトは大きく3回に分けたシステムリリースを行っています。

いずれも複数システムを関連付けてリリースを行う必要があり、それぞれのプロジェクトの遅れが他に影響を及ぼしてしまいます。

そこで、プロジェクトが目指すゴール及びフェーズ単位で迅速な意思決定が行えるよう、PMO体制をリリース時期単位に分割し、それぞれに統括体制を置き、個別プロジェクトの範囲を超える意思決定を統括体制の単位で行うようにしました(図4-3)。

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定例的な報告やエスカレーションなど、PMOチーム全体で行っていた管理を統括体制が行うようにします。

札幌市では、平成25年度当初の税システムが開発段階に入るタイミングで、この体制に移行しました。

具体的には、平成26年度に稼働する税システムの統括体制、平成27年度稼働の国保系・福祉系の統括体制という大きく2つの統括体制に加え、既に稼働済の住記システムの運用についても運用が落ち着くまでの間、運用統括の体制をおいています。

プロジェクト体制を分割すると、当然ですが全体の把握やプロジェクトの一貫性が取りにくくなります。

この時期にはすべてのプロジェクトの要件定義が終了し、プロジェクト全体としての一貫性が保ちやすくはなっていますが、このフェーズに入る前に、プロジェクトの一貫性を保つための規約や基盤づくりなど、統制する仕組みづくりを整えておくことが重要となります。