3. プロジェクトメンバーの柔軟な配置と変更

3. プロジェクトメンバーの柔軟な配置と変更

前節のプロジェクト体制の状況に応じた最適化に続いて、ここでは、プロジェクトメンバーの柔軟な配置と変更について説明していきます。

プロジェクト体制での役割に対し、メンバーの配置がマッチするかは、プロジェクトの特性や関係するメンバーとの組み合わせなど、さまざまな要素によって変わるため、実際やってみないと分からないことが多くあります。

しかし、ある程度実際にやってみた状況をシミュレーションすることで、ミスマッチを軽減させることが可能だということがわかりました。

今回は、シミュレーションによってミスマッチを軽減する工夫である「研修による特性の把握」と、それでも生じてしまうミスマッチに対処するための工夫である「プロジェクト内での柔軟な体制変更」について紹介します。

 3.1 研修による特性の把握

 これは、メンバーが配属されたタイミングで行う新規配属者研修の期間を活用し、この研修を単に教えるだけでなく、研修を通して個々のメンバーのふるまいを観察することで、実際にプロジェクトにどのように体制に配置するかを見極めるという取り組みです。

 プロジェクトにはプロジェクトマネージャやアナリストといったさまざまな役割があります。プロジェクトマネージャは管理者として、緻密性や、旗振り、先を読むといった特性が要求されます。

一方、アナリストは、成果物の整合性を意識できるか、課題発見・問題解決にたけているか、作業プロセスの組み立てができるかといった特性が要求されます。

実際にプロジェクトに配置すると、本人の特性とメンバーの特性、そしてそれぞれの組み合わせによって、議論のまとめ役、論理思考、進行管理役。旗振り役になったり、違う役になったりといったことが起こります。

 そこで、研修において仮想プロジェクトを実施し、PMOチームメンバーが第三者としてそのふるまいを観察することで、より実際に近い状態でメンバーの特性を観察します。

そして、その結果から、メンバーの組み合わせを考慮し、新しいメンバーがどの役割で最もパフォーマンスが発揮できるか、人材配置のシミュレーションを行い、その結果を踏まえて、プロジェクトに配置するということを行います(図5)。

zu5

 平成25年度に実施した新規配属者研修では、開発手法の説明や現場の見学といった講義型の研修に加えて、2回のワークショップ形式の実践的な研修を取り入れました。

ワークショップの1回目は、開発プロジェクトそのものを題材とした問題解決演習、2回目はメンバーで仮想のプロジェクトに対し体制を構築する演習です。

全2回の研修は、それぞれ開発手法への理解を確認する意味もありますが、もう1つの側面として、先に紹介したメンバーの特性を把握するということを狙ったものです。

「仮想プロジェクトを観察する」

 今回は、第2回の研修を例に紹介します。新規配属者はプロジェクトに配置されたときに、自分の役割を意識して活動することがうまくできないために、何をしてよいか迷ってしまうことが起こります。

そこで、ワークショップ研修の前にプロジェクトにおける役割について学ぶ講義型の研修を行い、その内容を踏まえたワークショップを実施しました。

新規配属者12名を3つのグループに分けて、それぞれ仮想のプロジェクトと見立てて活動します。仮想プロジェクトでは、グループ内でそれぞれの役割の意味や各メンバーの特性などを意見交換のうえでメンバー配置を検討し、その配置にした理由をプレゼンテーションしてもらいます。

仮想プロジェクトにあげてもらう具体的な成果(物)は3つ、「プロジェクトの体制図」、「それぞれのメンバーがどうしてその役割にしたかの理由」、「それぞれのメンバーの活動内容と期待する成果」です。

これは、新規配属者にプロジェクトにおける役割を理解してもらうととともに、メンバーが相互にそれぞれの特性を把握してコミュニケーションをとること、成果(目的)を意識して協力して活動するという、プロジェクトの基本的な活動に慣れてもらうことを狙っています。

そして、研修のもう一つの側面であるメンバーの特性の把握のために、この仮想プロジェクトでの新規配属者の振る舞いを複数のPMOメンバーが外部から観察しました。

そして、全2回の結果をもとに、人材配置のシミュレーションを行い、新規配属者のプロジェクトの配置を決めていきました。

 なお、この方法は新規配属者のみ有効なものなので、既存メンバーとの組み合わせまで確認することはできません。

ですが、既存メンバーと違い全く特性が把握できていない新規メンバーの特性を把握し、初期段階での配置のミスマッチを減らすという点で有効な手法であると考えています。

3.2 プロジェクト内での柔軟な体制変更

研修で特性をみて配置することで、より実態に近い配置をとりミスマッチを減らすことはできます。

しかし、実際のプロジェクトに配置すると、プロジェクトの置かれている状況などで、想定していたようなパフォーマンスが出ない場合があります。

また、他のプロジェクトの状況が変化し、そちらに人的リソースの投入が必要となるような場合もあります。

さらには、モチベーションの高さや特性から、PMOとして個別プロジェクトへの支援に回ってもらうことや、次世代の情報化部門を率いてもらう人材としてさらなる経験を積んでもらうために配置を変更したいという場合も出てきます。

そこで、実際にプロジェクトに配置したあとでも、状況に応じて柔軟に人材配置を変更しチューニングできるようにします。

通常、自治体の場合は年度当初に事務分掌を決め、年度途中で事務分担を変更することはほとんどないと思います。

札幌市のシステム再構築では、プロジェクトに配属されるメンバーを、人事上も税システム開発担当係長のような特定の開発担当ではなく、システム開発担当係長、システム開発担当として配置してもらっています。

そうすることで、人材配置をPMO体制において柔軟に変更できるようになっています。

 頻繁な変更は現場の混乱や担当者のモチベーション低下につながりますので注意が必要です。

目先の対処のための安易なものではなく、プロジェクトの全体状況を俯瞰し、半年後、1年後の体制を想定しつつ、4か月~6か月程度で人材配置の見直しを行い、人材配置を調整するようにしています。

「おわりに」

プロジェクトはシステムを作って終わりではありません。

プロジェクトの完遂とともに、その目的が次の世代へ繋がれ、維持し続けられなければなりません。

プロジェクトにおいて、人を育て、活かすこことは、その完遂と同時に、プロジェクトの目的を維持し続けるという目的も果たすことにつながります。

私たちは、基幹系システムの事業目的を単なる再構築ではなく、稼働後も20年間にわたり、事業の目的を維持できることを目指してプロジェクトを進めています。

ですから、20年間維持し続けられる人材育成もこのプロジェクトの目的に含めて活動しているのです。

次回は、「システムを確実に稼働させる」をテーマに、リリースのタイミングを迎えるにあたり気を付けるべきポイントや工夫についてお伝えする予定です。