プロジェクトの名監督を目指す 体制と人材配置の工夫
サッカーの中継を見ていると、試合でのフォーメーションやメンバー編成について、解説者が熱弁をふるっています。
どのようなフォーメーションを採るのか、それぞれのポジションに誰がつくのか。
フォーメーションとは、フォワード中心の攻撃性の高い布陣で行くのか、あるいはディフェンダーを厚くした守り主体の布陣で行くのかといった全体の役割分担のことです。
そして、その中にどのメンバーを配置すると一番うまくチームが動けるのかを考えていきます。名監督は、このフォーメーションとメンバーの配置の二つを状況に合わせて組み立てることによりチームを勝利に導いていきます。
システム開発プロジェクトも、サッカーと同じようにフォーメーション(プロジェクト体制)とメンバー編成(人材配置)がとても重要です。
つまり、プロジェクトを推進する立場の人は、プロジェクトチームの名監督にならなければなりません。
システム開発プロジェクトは、サッカーのように長期間の訓練なしで上手くこなせるようになるために、さまざまな手法や仕組みが用意されています。
PMBOKのようなプロジェクト管理の手法や、「これを導入すればうまくいく」といったうたい文句のプロジェクト管理のソフトウェアなど、枚挙に暇がありません。
それらのうたい文句などを目にすると導入するだけでプロジェクトがうまくいくのではと思ってしまいます。
しかし、どんな手法や方法論を用いても、それを使いこなすのは人です。プロジェクトには必ずしも十分な人員が用意されるわけではありません。
また、プロジェクトが大きくなると、作業規模が大きくなるために役割を細分化して分担するようになったり、人員が増えるために配置される人の向き・不向きも出やすくなったりします。
プロジェクトの完遂のためには、限られた要員がそれぞれの特性を最大限発揮できるよう、人を育て、人を活かす必要があるのです。
このことは、プロジェクトの規模が大きくなればなるほど実感することになります。
これまでの連載でも紹介してきたように、札幌市では大規模なシステム再構築を職員主導で進めてきました。
開発の実作業は入札により調達した開発ベンダーが行いますが、だからといって、職員側が報告を受けて指示を出す役回りだけをしていれば良いわけではありません。
職員自らがプロジェクトの一員として、役割を持ってシステム開発に関わる必要があり、人と組織の問題が重要になります。
私たちは、AIST包括FWという手法を採用することで、少ない知識やスキルでも早期にプロジェクトをこなすための土台ができているとなったと考えています。
しかしながら、さらにこれに加えて人の活用についての工夫なしにはシステムのリリースまでには至らなかっただろうと思っています。
自治体で大規模なシステム開発を行うときに、特に重要になるのは次の3点です。
・ システムの専門家ではない自治体職員による主導
・ プロジェクトの進行とともに増大する要員数
・ 変化するプロジェクト状況と目的
これらに起因してさまざまな問題が生じます。
特に自治体においては、1点目の「システムの専門家でない自治体職員による主導」というものが特有の事情としてそれらの問題を悪化させることになります。
私たちが、問題解決するために取り入れたのは、
(1) PMOと個別プロジェクトの枠組みを活用した開発フェーズごとの最適なフォーメーションの選択
(2) フォーメーションへのメンバー配置の工夫
の二つです。
これは、まさにサッカーでいうフォーメーションの最適化とメンバー配置に対応します。
実を言うと、これらの工夫は、私たちのプロジェクトでは問題が生じてから手を打ってきたため、後手になってしまった面があります。
しかし、こうした問題はシステムを再構築するようなプロジェクトにおいて共通して起こるものです。
ですから、あらかじめ、いつ、どのような問題が起こることを知っておくことで、読者の皆さんは実際に問題が発生するよりも先んじて手を打つことができるはずです。
以下では、プロジェクト遂行にあたって生じる問題点とその解決手段について、具体的に紹介していきます。