1.堂々巡りになってしまうシステム企画

1.堂々巡りになってしまうシステム企画

「これで行きましょう。」市長は資料から顔を上げて言いました。

市長副市長会議で基幹系システム再構築事業にGoサインが出された瞬間です。
平成21年(2009年)12月21日のことでした。

この言葉を聞いたとき、「これで長年の堂々巡りが終わった」というホッとした気持ちと同時に、これからを想像しての高揚した気持ちが沸いたことを昨日のことのように思い出します。

この連載で紹介している札幌市の基幹系システム再構築ですが、システム企画から実施までの間に5年の歳月を要しています。

その5年間は、何度も何度も同じような検討を繰り返し、なかなか前に進まないという「システム企画の堂々巡り」の状況でした。

システムの新規導入や再構築をするときは、その前段階で「システム企画」が行われます。

システム企画のなかで、どのような課題解決をするのか、そしてどの業務をどのような方法でシステム化するのかを定め、スケジュールや費用について計画化していきます。

しかし、これがなかなか思うように進まないというのが多くの自治体の担当者の共通の悩みになっています。

もちろん、札幌市も例外ではありません。

内容がまとまらない、内容が決まっても実行の意思決定がされない、検討を進めているうちに決まったはずのことに再度検討が求められる・・・。

そんな具合に、いつまでたってもシステム企画が実行に至らないということが起こるのです。

札幌市は、5年の堂々巡りのあと、ようやく実施に移ることができました。あとから振り返ってみると、そこから脱却するためのポイントがありました。

このことにもっと早くに気付いていれば・・・と思います。

うまく進められている自治体の人たちは、当たり前のように実践されていることだと思いますが、これからシステム企画に関わる人たちのお役に立てるよう、これらのポイントをお伝えしていきます。

1.堂々巡りになってしまうシステム企画

1.1 膨れる検討、まとまらない計画

システム企画では、情報化部門を中心に技術面だけでなく事業目的や費用対効果といった点も含め、さまざまな検討を行い計画が立てられます。

そして、システムの利用部門をはじめ、財政・人事といったさまざまな関係者とやりとりをします。

この関係者とのやりとりのなかで、さまざまな疑問や意見が出てくることになります。

堂々巡りが起こってしまう典型的なパターンは、これらのさまざまな疑問や意見を受け入れることで、計画が膨れあがってしまったり、反対に内容がどんどん削がれ骨抜きになってしまったりということが起こり、全体として目的や効果がわからない計画になり、検討がやり直しになってしまうということを繰り返すというものです(図1)。

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1.2 情報化部門内がまとまらない

中でも厄介な堂々巡りは、部門間での検討が始まる前のはじめの一歩として、情報化部門内で起こります。

よくあるのが情報化部門内の情報政策部門とシステム管理部門で意見が食い違い、計画がまとまらずに堂々巡りになってしまうというものです。これは、比較的規模の大きい自治体に起こります。

情報政策部門はシステムの全体最適やIT投資管理といった業務を担うため、「業務・システムを大きく変える」という視点が中心になります。

一方、システム管理部門は安定的にシステムの稼働を維持する業務を担うために、「システムを安定稼働させる」という視点が中心になります。

この視点の違いから来る意見の違いから、システム企画が堂々巡りに陥ってしまうのです(図2)。

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札幌市の基幹系システム再構築検討のケースでは、情報政策部門のメンバーがシステム管理部門出身だったということもあり、進まなくなるほどの大きな意見対立は生じませんでした。

しかし、過去のシステムの導入時にはこのような事態が発生し、システム企画やプロジェクト運営の調整に苦労するという状況がありました。
また、札幌市に視察に来られた自治体からお伺いした状況からも、とても多いと感じています。