1 職員主導で進める再構築

1 職員主導で進める再構築

1 職員主導で進める再構築

再構築の対象となっているシステムは、人口194万人の住民記録・税務・国民健康保険・保健福祉などの行政サービスを担う市役所の基幹業務を支える一群のシステムです。

これらのシステムは大型汎用機中心に構築され、プログラム本数はCOBOLとVisualBasic合わせて約20,000本、プログラム行数は約11,000KLOCの規模です(図1)。

図1

平成22年度から27年度までの6年間で全面的に再構築する事業です。

システムは3グループに分けて段階的に稼働させる計画で、24年に第1段のシステム(住民記録)が、26年に第2段のシステム(税務)がそれぞれ稼働(旧システムから移行)し、今年度には国保・介護後期、保健福祉を含めたすべてのシステムの稼働を予定しています。

開発費は当初計画で約130億円。その後、番号制度対応や福祉の制度改正などへの追加対応があり、150億円規模となりました。(図2)。

図2

開発しているシステムは、Javaをベースとしたオープン系のシステムです。
ハードウェアやミドルウェアは、オープンで標準的な技術を採用し、製品指定や機種指定を可能な限り排除した競争入札を実現しています。

業務システムの開発はフルスクラッチ型で、システムごとに要件定義、設計、開発、運用保守の各段階で分割し、それぞれ競争入札により調達するマルチベンダー体制で行います。

開発に関わる情報化部門の専任職員数は当初4名でスタート、ピークは32名(業務部門の専任職員も同規模の人員数)の体制です。

また、関わったベンダー数は84を数え、同時に最大15個のプロジェクトが進められました。

この開発の特長は、すべてのベンダーの活動について、計画立案、進捗確認、成果物品質を職員が把握し、スケジュール調整、スコープコントロール、コミュニケーションパスなどのプロジェクト管理活動を、マルチベンダー体制においても必要に応じてベンダーに指示を与えながら、主導して進めているところです。

2 情報システム部門としての苦悩の歴史

このような職員主導の開発を目指そうとした背景には、汎用機からオープン化にいたる時代の流れのなかで、情報システム部門として苦悩し、模索してきた歴史があります。

2.1 委託化で進んだ情報システム部門の弱体化

システム開発・運用の委託化と基幹系システムを取り巻く課題との間には密接な関連が存在していました。

札幌市の情報システムは、当初、職員がプログラミングしていました。
オンラインシステムの開発を契機に、難易度の高い開発を中心にベンダーに委託していくようになります。
その後、さらに「プログラム作成などの下流工程作業は委託化し、職員はシステム構築の企画段階などの上流工程に専念する」という方針が採られ、システムの運用保守業務についても順次委託化していきました。

これによって、職員がシステムを直接触れることのない時代に入っていくことになります。

人事異動により実装を経験した職員が徐々にいなくなっていくと、「実装の技術や経験を持たない職員がいかに委託先を管理するか」という新たな課題に直面することになりました。

ベンダーが提示する仕様変更時の影響範囲やその修正工数の見積もりについての妥当性判断、発注後の作業計画や進捗の妥当性チェック、品質確認の方法などに課題が生じるようになっていきます。

その結果、老朽化への認識が遅れることにもつながりました。 (図3)

図3