1.システムの維持管理を競争入札する
みなさんは、お財布や車など、お気に入りの一品をお持ちですか?
それらについて、品質を維持しながら末永く使い続けるには、程度の差こそあれ、「正しく使うこと」や「日々手入れをすること」が肝心です。
システムも同じです。
システムの品質を維持しながら使い続けるための活動は運用保守と呼ばれますが、せっかく立派に作りあげたシステムも、運用保守を適切に行わなければ、システムが正しく動作しなくなったり、老朽化が加速したりということが起こってしまいます。
札幌市は今回の再構築によって、技術を持たない非専門職員でもシステムの中身を把握できる「グラスボックス」なシステムを作りました。
それによって、システム開発だけでなく、維持管理についても競争入札により地元ベンダーを含めたさまざまなベンダーが受託できるようになっています。
既に稼働している住記システムや税システムの維持管理では、開発したベンダー以外が落札するという実績ができつつあります。
このグラスボックスなシステムも、運用保守を適切に行わなければ、その透き通った状態が曇りはじめ、中身が見えなくなる、ブラックボックスなシステムになってしまいます。
グラスボックス化により実現した発注者主導の取り組みを維持し続けるためには、グラスボックスなシステムを磨き続ける活動や、適切な運用保守を長期にわたって継続させていくことが必要です。
その結果として、運用保守そのものを入札により調達し続けることができるようになります。
そのためには、システムの維持管理の作業についても発注者が把握し管理できる仕組み、運用保守のグラスボックス化が有効です。
システムの運用保守にも適用することで、発注者が主体的にシステムの運用保守をコントロールすることが可能となります。
それによって、構築したグラスボックスのシステムを維持し続け、稼働後のシステム維持管理を競争入札により調達し続けることを可能とします。
今回は、札幌市のシステム運用保守の競争入札を実現するグラスボックスの仕組みについてお伝えします。
1. システムの維持管理を競争入札する
札幌市では、システムの維持管理作業を、完成したシステムを正しく利用するために必要な日々の作業が中心となる「システム運用保守」と、制度改正等によりシステムの仕様を変更する作業の「システム改修」の大きく2つに分類しています(図1)。
一般的なシステムの維持管理の考え方からすると、システムの修正を伴わない「システム運用」とシステムの変更が伴う「システム保守」という分類をすることが多いですが、自治体では予算制度や契約制度の制約から本市のような分類をしているところが多いのではと思います。
この2つの作業のうち、システム改修はシステム開発に類似した作業を行うため、システム開発のグラスボックス化の仕組みが適用できます。
一方、システムの運用保守は、維持管理のための定型作業が中心で、システム開発とは作業の性質に違いがあるため、少し異なった仕組みが必要です。
札幌市では、再構築を行った基幹系システムの運用保守をグラスボックス化することで、運用保守業務についても競争入札によりさまざまなベンダーが受託できるようになっています。
札幌市の基幹系システムは沢山のシステムから構成されるため、システム運用保守業務は、システムの関連性や作業規模などを考慮し、幾つかの調達単位にまとめて入札を行っています。
また、定型・定期かつ継続して行われる作業が中心で作業量も事前に想定が可能なことから、3年間の長期契約にすることで競争性と運用の安定性を両立させています。
なお、調達により業者交代が行われる場合は、業務仕様に引継ぎ期間を設け、新旧の業者が一緒に運用保守を行いながら確実に引継ぎが行われるようにしています。
システム改修は、主に制度改正などにより発生するもので、その時期や規模の予測が非常に難しいため、案件が発生する都度、変更仕様を検討し投資対効果の判断を行ったうえで予算化し、入札を行います。
再構築されたシステムは安定するタイミングである稼働から1年経過後を目途に入札を開始します。
これまで実施した運用保守業務の競争入札は平成28年2月末現在で5件となっています。
この5件の入札のうち、平成24年に稼働した住民記録システムでは3社、平成26年に稼働した、住民税システム運用保守業務では2社、固定資産税システム等運用保守業務では3社、税収納証明滞納システム運用保守業務では2社の参加があり、開発したベンダー以外が落札した事例、地元企業が落札した事例がみられるようになってきました(表1)。
また、システム改修についてもこれまでに7件の入札を実施し、複数の業者、地元の業者が応札・落札する事例が出てきています。
このように、再構築事業の目的である、維持管理について開発ベンダー以外が応札すること、地元企業への発注拡大が実績としてできつつあります。