発注者主導を実現するグラスボックスのしくみ
システムの開発や運用に関わる皆さんは、その活動を行うなかで、どうしようもない徒労感やもどかしさを感じたことはありませんか?
「スケジュールは順調と言っていたのに、最後になってこのままでは間に合わないといわれた。」
「当然必要なはずの機能がないことを指摘したら費用追加を要求された。」
「共通基盤を作ったのに、システムごとにベンダー固有のミドルウェアを入れることになった。」・・・
こうした状況は、システム開発や運用などがベンダー依存になっていることが大きな原因です。
札幌市では、基幹系システムの再構築を通してベンダー依存の状態から脱却し、発注者側に主導権を取り戻す試みを続けています。
それは単なるシステムの再構築ではなく、システム開発の知識も経験も圧倒的に低い職員が、主体的かつ持続的にITベンダーを統制していくしくみを確立し、情報システム部門の役割・あり方までを再構築するというものです。
「札幌市が大規模な再構築をしている」ということは広く知られるようになりましたが、具体的にどのような工夫をしているのかをお伝えする機会がありませんでした。
この連載では、これまで国や自治体、公共系に近い企業の方などから、数多くの問い合わせや視察を受けたときに「参考になった」と評価いただいたことを中心に紹介していきます。
皆さんの中には、自分たちは政令市ではないので、大規模フルスクラッチ開発とは縁がないと思われた方もいるかもしれません。
しかし、札幌市の再構築はシステム単位、工程単位で発注を細かく分割しているため、中規模、小規模の開発の集合です。
ですから、パッケージ調達も含め規模の小さな自治体や機関にとっても役立つノウハウが蓄積されています。
システム開発はもちろん、マイナンバーに伴う改修・連携テスト、自治体クラウドへの移行、マルチベンダーでの運用保守など、さまざまな場面で活用いただけると思います。
今回は、札幌市における再構築全体の特徴である「グラスボックス化」の考え方と、それを支える技術の枠組みである「AIST包括フレームワーク(以下、「AIST包括FW」)」の概要について、背景を交えながら紹介します。
第2回以降は、「システム基盤」「システム企画」「マルチベンダーでのプロジェクト管理」「要件分析」「体制とスキル移転」「システムリリース」「運用保守と競争入札」について紹介していく予定です。