【第1回】「最低最悪の発注者」が問い続けた「発注者主導とは何か」

【第1回】「最低最悪の発注者」が問い続けた「発注者主導とは何か」

公共部門は「最低最悪の発注者」

IT系の記事を掲載する大手Webメディアには、公共部門を「最低最悪の発注者」と名指しし、公共部門のシステム開発・運用がいかにひどい状況なのかということを繰り返し記事として掲載しているものがあります。

沢山の人の目に留まり問題を認識して貰うために、あえて極端な言い方をしているという面があることは理解できるのですが、やはりそういった記事を目にするたびに、反論したい気持ち、そうでない気持ちが入り混じった複雑な心境になります。

ただ、再構築を始める前の状況を振り返ってみれば、そういわれても仕方ないのかなと思ってしまう部分もあります。

情報システムの開発や運用がベンダーに丸投げになっていることで、さまざまなトラブルや制約が起きている。このままではいけない・・・・

そう思いつつも、丸投げから脱却するためには、具体的に何をすればよいのか、どこから手を付けて良いか、出口のない霧の中をさまよっているような感じを受けていらっしゃる方は公共部門に限らず多くいらっしゃるのではないでしょうか。

ITが変化を阻害する

私たちJosys-ledのメンバーが情報化部門に配属されたのは2005~2007年頃になります。

その頃は、札幌市の情報化部門がシステムの運用を全面アウトソーシング化し、プログラムを書くことがなくなってから、ちょうど10年が経とうとしているところでした。
基幹系システムそのものも、稼働から20年に迫ろうとしているところで、プログラムが複雑化するといった老朽化も進んでいました。

〈過去のこの記事でも紹介していますので、あわせてお読みいただくことをオススメします〉

帳票の文言を少し直したいといった要望や市民サービス向上の機能追加をしたいといった要望が高額な見積となり実施できない。

そういった状況を揶揄した「帳票1か所100万円から!」なんて言葉も飛び交いました。

現場で働く職員を支援し、市民サービスを向上させるためのITが業務部門の要望に応えられなくなり、変化を阻害している。
そして、システムの利用者である業務部門から聞かれたことは「ベンダーに確認します」、反対にベンダーから聞かれたことは「業務部門に確認します」となってしまう。

自らが存在していることで付加価値を付けるどころか、どちらにも精通していないことで、伝言ゲームになってしまう。
情報システム部門にいながら、組織、そして自らの存在意義に疑問を持ってしまう、そんな状況でした。

霧の中で出口を探す日々

よく、「役人は責任を取らない。人事異動するからと問題を先送りする人ばかり。」と言われます。
しかし、そんな状況に「このままではいけない」という意識を持って解決策を模索する先輩達がいました。丸投げになっている状況からどうやったら脱却できるか議論され、さまざまな解決策が上がっていました。

「プログラムが分からないからだ。プログラミング研修をしよう」
「専門職化が必要だ。情報職を創設すべきだ」
「情報化部門は不要な時代になった。システムを全て業務部門に渡すべきだ」

起きていた問題はシステムの老朽化と深く結びつき、簡単には解決できそうにありません。小さな改善は行われるものの、根本的な解決には遠い状況でした。

しかし、さまざまな議論の中で、その後も私たちの中に強く残り続け、その後に行われる再構築の指針ともなるべきものありました。

それは「委託管理とは何か」という問いです。

「委託管理とは何か」

丸投げから脱却するためには委託先を適切に管理できることが必要だ。

では、委託(アウトソーシング)先を管理できているとは、どういう状態なのか?
発注者としてどんなスキルがあれば委託先を管理できていると言えるのか?
それは、委託先と同じ技術を保有するということなのか?

出す答えは、情報化部門の役割を価値あるものにすることができるのか?

解決策を模索する議論のなかで、この「委託管理とは何か」という問いが私たちの中に深く突き刺さりました。

この「委託管理とは何か」という問いは、その答えを模索する過程で、当初の「委託先を適切に管理する」という意味から、「もっとITを主体的に利用できるようにする」いう意味が加わり「発注者主導とは何か」という言い方になっていきます。

問いを持つことは何かを成し遂げる力になる

再構築のお話をさせていただくと、「札幌市はモチベーションの高い人たちがいたから成功した。残念だが我々にはそういう人たちは居ない。」とよく言われます。

しかし、私たちも最初からモチベーションが高かったわけではありません。そして、皆が最初から同じ方向を向いていたわけでもありません。

共通の問いを持ち、その問いの答えを徹底的に議論し一緒に探し続けたからこそ、同じ方向を向くことができ、やるべきだと思えるようになった。
そういう泥臭い過程があったからこそ、得られたものだと思います。

情報化部門の人たちが共通の問いを持ち、それに答えを出す活動をすることは、様々な意見があるものを一つの方向に収束させていく力があります。そしてそれが、何かを成し遂げようとするときのエネルギーになってくれます。

<過去のこの記事でも紹介していますので、あわせてお読みいただくことをオススメします>

「発注者主導とは何か」に出した答え

札幌市の基幹系システム再構築は、システムの老朽化が著しいことが直接のきっかけです。

しかし、情報化部門してのシステム再構築は、この「発注者主導とは何か」という問いに対し答えを模索し続け、その答えを形にする活動だったということもできます。

そしてその問いに、システム再構築を始めるときに出した答えが「グラスボックス化」でした。

「発注者主導はシステムをグラスボックス化すること、グラスボックスは発注者主導を実現する仕組みである。」

私たちは、こう考え、グラスボックス化を事業の柱に据えて再構築を実施しました。

そして、再構築が終わった今、改めてその問いに答えるとするならば、その答えは「備える」という言葉が適切なのではないかと感じるようになりました。

これは「グラスボックス化」が違っていたということではありません。グラスボックス化は「備える」のなかに含まれています。グラスボックス化をしたことで、さらに見えてきたこと、必要だと感じたものがあり、それを含めて改めて考えた時に「備える」という言葉で括るのが適切だと感じたということです。

私たちが再構築を経験したことで出した「備える」という答え。
そして、この「備える」には、3つの「備える」があります。

1つ目は「やりかたを備える」こと、2つ目は「はじまりに備える」こと、そして3つ目は「これからに備える」ことです。

次回は、これら3つの「備える」のうち、1つ目の「やりかたを備える」について、グラスボックス化とは何か、そしてグラスボックス化と備えるとの関係も含めてお話しをしていきます。